172.真心がぎっしり詰まった「下町ッ子」の牛肉に舌鼓を打つ。

下町ッ子

 富士見台の駅を出てふじみ銀座商店街を抜けると千川通り沿いに『神戸牛 下町ッ子』の提灯が見える。今年で丸十年を迎えた牛肉の専門店は、肝っ玉母さんの様な陽気な笑顔が自慢の松澤瑛恵(てるえ)さんが一人で切り盛りしている。元々和牛一筋『松金』と云う肉屋を営んでいたが、家業をたたんだ時にご主人に十年間だけで良いからやらせてね、と無理を言って出した神戸牛の専門店だ。
 45年間の肉屋時代に培った牛肉の見立ては筋金入りだ。高見牧場から直接仕入れるA5クラスの特選神戸和牛のランプ肉は、全部瑛恵さんが一人で捌いていく。此所はステーキ肉、此所はシチュー用、残った細かい部位はハンバーグ用にと切り分けるのだ。面倒を惜しまず、手間をかけるから、とても安価で上等の肉が味わえるのだ。
 牛肉は適度に熟成させないと美味しくならない。此処では、最低三週間から五週間は冷蔵庫の中で寝かせるのだ。それ故、通い慣れたお客は、熟成具合を電話で確認してから来るのだ。熟成具合が間に合わない時は暖簾を出さない。また、小さなカウンターとテーブルがひとつだけの店内は、混んで来ると暖簾を引っ込めてしまう。「外に行列が出来ると困るし、一人で対応するのにも限界があるでしょ。だから、お客さんが帰って席が空いたら、また暖簾を出すのよ」と気さくな笑顔で話してくれる。「松金は地元でも有名な肉屋だったので、その屋号だとかつてのお客さん達が来てスグ混んじゃうでしょ。私が下町育ちだったのでこの名前にしたのよ」、話を聞いているだけでも愉しいひとときを過ごせるのだ。
 本当に美味しい牛肉を食べたくなったら、迷わず此処を訪れて欲しい。お母さんの真心がギッシリと詰まった極上のステーキが至福の時を与えてくれるから。
神戸牛ステーキ茶屋 下町ッ子 中野区上鷺宮3-10-12
03-3970-0471