174.グツグツと沸き立つ鍋の音に誘われ、門前仲町に酔う。

大阪屋

 廻りをぐるりと川に囲まれた門前仲町は、周辺に清澄庭園深川不動堂などが在り沢山の人が訪れる。駅から十分も歩けば、越中島水上バス乗り場も有るので天気の良い日に東京水辺ラインの船旅もまた愉しい。江戸三大祭りの一つ「深川八幡まつり」で名の知れる富岡八幡宮も有名だ。日曜に催される骨董市では、掘り出し物を見つける事も多い。
 此処に奉られる恵比須神に始まり、冬木弁天堂の弁財天、深川稲荷神社の布袋尊、深川神明宮の寿老神まで森下駅までの間に深川七福神巡りも出来るので、福運祈願をしながらの半日散歩にも打ってつけだ。
 江戸情緒が随所に残る深川の中心、門前仲町の名が示す永代寺の門前に開かれた町であり、江戸時代には辰巳芸者目当てに多くの旦那衆が茶屋に集まり賑わっていた。その門前から真っ直ぐ清澄通りへと続く通りを歩くと深川公園を過ぎた辺りにそこだけ昭和にワープした様な「辰巳新道」が在る。間口九尺二軒の小さな店が三十店近く軒を連ねていて、夕暮れと共に酒を求める人たちが集まって来る路地だ。
 辰巳新道と清澄通りの間に佇む『大坂屋』は、大正時代から続く牛煮込みの酒場だ。使い込まれた白木のカウンターは、真ん中にデンと煮込み鍋が鎮座している。 
 鍋から聞こえるグツグツと沸く音が至福の時へと誘ってくれるのだ。此処の煮込みはシロ、フワ、ナンコツの三種のみ。甘過ぎず、辛過ぎず丁度良い塩梅に煮込まれて、どの酒にも合う。焼酎の梅割りが一番だが、三杯も呑めば効いて来る。
 小さな半円カウンターと壁際の席で十人も入れば一杯になってしまう小体の店だが、此処は心優しい客が多く、席を詰めてくれたり、切り上げて席を譲ってくれる。
 そんな下町の心意気に触れられるのも、煮込みの味と共にに此処の魅力である。四時開店なので、深川散歩に疲れたら大坂屋の暖簾を潜ると良い。程よく酔ってきたら、路地を曲がれば、ホラ辰巳新道呑み屋街が待っている。
仲町名物 牛にこみ大坂屋
江東区門前仲町2-9-12
03-3641-4997