17. いしいの天ぷらで、夫婦円満の秘訣を知る。

天ぷらいしい

 築地本願寺を通り抜け、晴海通りの露地を入った処に昔から佇む家庭的な小さな天婦羅屋が「天ぷら いしい」だ。お世辞にも小綺麗な店とは云い難いが、とても心和む夫婦が二人で営む街の天婦羅屋さんである。場所柄、築地で働く連中が多いのでスタミナ補給の効果を考えて若干濃い味に仕上げているタレがこの店の特長だ。また、魚介や野菜等新鮮な素材を注文を受けてから捌くのも見ていて気持ちが良い。品書きも種類豊富。まぁ人によっては時間がかかるから困るのかもしれないが、カウンターでゆっくりとビールでも飲みながら時間を過ごすならば、親爺さんのパフォーマンスは最高に楽しく見応え十分である。
 いしいは天婦羅定食も美味しいが、まずは天丼を食べてみてほしい。目の前で揚げたてをジュっとタレに潜らせる音が、食欲をそそる筈だ。さかな天丼は、季節毎の魚介をふんだんに揚げてくれる。そして、塩で食べて欲しい天種はタレをくぐらせず乗せてある。この時期だと牡蛎や白子も始まるだろう。上天丼にはかき揚げが入っているのだが、「ヌキ丼」と頼めば大きなかき揚げの代わりに別の素材を揚げてくれる。野菜天丼も良し、要するにどれも美味いのだな。
 ここの楽しみは天婦羅の味だけではない。夫婦が実に良い。最近は歳のせいか痩せて以前より若干小さく見えるのだが、この親爺さんが兎に角お内儀さんに怒鳴ってばかりいる。しかし、それをもろともせず受け流しているお内儀さんが凄い。まるで、のいるこいる師匠の漫才以上だ。注文が立て込むと親爺さん「うぅっ」と唸りだし焦るのだが、お内儀さんは淡々として親爺さんをあしらう。何故かこれで上手くいっている夫婦である。
 土曜日の遅い昼過ぎにゆっくりと行くのがいいかもしれない。最後にデザートとして揚げてくれる丸十(薩摩芋)にやられ、きっとまた来たくなるであろう。
天ぷら いしい  中央区築地6‐3‐8
03-3541-8474