19. 根岸の里の羽二重団子は江戸から続く、元祖買い食いの友だ。

羽二重団子

 芋坂の団子下げたる賀客かな
 久保田万太郎が正月の風景を詠った句である。根岸周辺は江戸の頃から文人墨客が好んだ土地らしいが、「羽二重団子」は多くの文人に取り上げられている。夏目漱石の「吾輩は猫である」や泉鏡花の「松の葉」、また正岡子規もまた正岡子規も一句詠んでいる。これほどまでに文人たちに愛されているのは、その素朴な味わいと江戸の情緒を偲んでいるからだろうか。
 今から180年程前の文政二年、日暮里は根岸の里、音無川のほとり芋坂に初代の庄五郎が茶店「藤の木茶屋」を開き、往来の人々に団子を提供していた。この団子が、きめ細かくて羽二重のようだと評判を呼び、その名が団子の名となり、いつしか店の屋号も「羽二重団子」になったという。今は六代目、庄五郎がその味と江戸の風情を受け継いでいる。
 平たく潰した餅を串に刺し、生醤油のつけ焼き団子と甘さを抑えた渋抜き漉し餡の二種類を作り続けているのだが創業時と味も製法も変わらないそうだ。それ故、日持ちもしないのだが、そこがまた良い。手土産に持参すれば、その場で折りを開けてお茶受けに出してもらう。お茶を片手に餡団子と焼き団子を一粒づつ交互に食べるのが愉しいのである。
 店内に展示された江戸明治期の道具を眺めるのも、庭の木々や池の波紋を見るのも何とも贅沢で、心和む時間だ。ここで食べ、そして夜のおやつにとまた折りを買って帰るのが根岸の里を訪れる楽しみのひとつである。
 一本231円の素朴な幸せを是非、濃い目のお茶で召し上がってもらいたいものだ。遠い昔の、川縁りを往来する人々の笑う声が今にも聞こえてきそうである。
根ぎし 芋坂 羽二重団子 荒川区東日暮里5-54-3
03-3891-2924