102. 爽やかな風を感じる季節。下町、大林で呑むとするか。

大林

 南千住の高架駅に降りると、すぐ眼下には線路が複雑に分岐する幅広い隅田川貨物駅が一望出来る。線路の上を歩道橋が通っており、此処を抜けると日本堤方面へ出る。
 明治通りと交差する泪橋界隈は三谷地区と呼ばれ、日雇いの労働者達が寝泊まりする簡易宿舎、ホテルなどが数多く在る。かつては高度成長と共に建築ラッシュが相次ぎ、地方から出稼ぎに来たりする労働者が大勢この辺りに住み、仕事が終わる夕方になれば、安くて旨い居酒屋で一杯やって、其の日の疲れを癒したと聞く。
 今から40年も前、ちばてつや氏の漫画「あしたのジョー」は、この三谷地区のドヤ街が舞台となった。アル中の丹下段平が丹下拳闘ジムで矢吹丈を育てたのが泪橋のたもとだった。この辺りには、「朝日名酒ホール」「もつ焼き 山久」など大衆酒場がたくさん在る。数十年前のように日雇い労働者で溢れていた光景は少なくなっているが、今でも路地裏の飲み屋では昼間っから酒浸りの連中も居たりする。
 泪橋を越えてすこし歩くと大衆酒場「大林」が在る。此処は3時半から暖簾が下がる。年期の入ったコの字形のカウンターに木の丸椅子も実に良い風情。また、計算され尽くした様に並ぶ酒瓶も親父さんの立つ位置も、いつも変わらない。
 少しずつ外の気温が高くなってくれば、大林の窓と戸口が開く。外の庭から入る木漏れ日を眺め、キンミヤの酎ハイを呑む。たっぷりと注がれた焼酎に強めの炭酸が一本。梅エキスなどは一切入らないシンプルな奴だ。煮こごりをアテに2、3杯も呑めば程良く酔い心地になるのだ。陽も長くなってきたし、浅草まで歩くとしようか。
大林 台東区日本堤1丁目