103. 春めいてくると、ビールが恋しい。斉藤酒場で冷やしビールを。

斉藤酒場

 埼京線が出来てからと云うもの、恵比寿から十条、赤羽までの距離がグッと縮まった。仕事帰りにちょっと一杯と思ったら、迷わず埼京線に乗る。20数分程度で十条駅に到着だ。駅を降りてロータリーを右に進み、路地を入ると「斉藤酒場」の暖簾が揺れている。
 ガラリと戸を開けると、中はいつだって満席だ。赤ら顔のオヤジから若いOLさんまで幅広い客層で賑わっている。壁に掛けられた鏡を見れば、創業昭和三年と書いてある。幾つか置かれている大きなテーブルも原木の形を活かしたもので、此処は昭和の香りを其のまま残した実に風情溢れる酒場で在る。
 一皿200円のポテトサラダと串カツ、カレーコロッケが酒のアテにもって来いだ。これからの季節は冷や奴なんてのも良い。何を頼んでも安いし旨い。サラリーマンの懐にも大変優しいのである。店の看板に唱っている「大衆」の文字に偽り無しなのだ。可愛い笑顔で働いているおばちゃんたちもまた此の店の魅力の一つである。
 此処はつまみも旨いが、ビールがとびきり旨い。壁の短冊には「冷やしビール」と書かれているのだ。ビールなんだから冷たくて当たり前って云って仕舞えば、其れまでだ。最近はどこの店に行っても最新の冷蔵庫でガンガン冷やしているが、「斎藤酒場」は水の入った冷蔵庫の中で瓶ビールが気持ち良く冷やされている。それをおばちゃんたちが注文がある都度に、ひょいと抜いて布巾で丁寧に水を拭いて持って来てくれる。そう、冷えすぎず、程良く美味いと感じられる冷たさを保っているのだ。こんな素敵な大衆酒場はおいそれとは出来ない、日本の財産に指定したいものである。
斉藤酒場 北区上十条2-30-13
03-3906-6424