104. 新橋柳通りの多吉は一人で呑むのに良い鰻屋だ。

多吉

 少し前まで僕の仕事場は新橋柳通り沿いに在った。鰻好きの僕は此の界隈の鰻屋を片っ端から攻めた。久しぶりに柳通り沿いの「多吉」を訪れた。此処は何十年も変わらない侘びた佇まいが好きなのだ。
 扉をくぐると、もう「昭和」にタイムスリップした感を覚えるのである。時折映りの悪いテレビに話しかけ、鰻の串をアテにキンミヤ焼酎をやるのがとびきり幸せな時間なのだ。親爺さんが一人で切り盛りしているので、マイペースで実にのんびりと仕事をして居るのも、また良しだ。
 先ずは、通しのお新香をアテに瓶ビールを1本。親爺さんはせっせと串を刺している。此処の串は初めに6串のセットを注文する。その後は好きに頼めば良い。「えり」「きも」「れば」「ごぼう巻き」「短冊」「つくね」の6串で1,550円である。鰻のつくねと云うのもこれまた美味い。
 3串程食べたところで、キンミヤを戴く。ここはグラスに溢れる程にたっぷりと注いでくれるので、サワ−1本頼めば充分2杯楽しめるのだ。追加で「ひれ」を塩で焼いて貰えば幸せな気分に浸れるだろう。
 キンミヤは美味いが、酔いも早い。もう一杯お代わりをしたら十分すぎるほど酔ってきた。〆に「酔い覚ましの一杯だよ」と、親爺さん特製のスープを戴いた。このスープ、鰻の出汁で取ったスープなのだが、トマト味に仕上げており上品なミネストローネなのである。最後に此んなのを出されてしまうと、もう完全にノックアウトだ。美味すぎて、言葉が出ない...。
 いや、口が勝手にしゃべり出す、「オヤジさん、お代わりもう一杯ッ!」。おアトが宜しいようで。
多吉 港区新橋3-16-19
03-3431-4309