145.あのシンガポールナイトの魂が道玄坂の屋上に息を吹き返した。

バーR

 今から数十年も前、新宿に「怪人二十面相」と云う店が在った。それから原宿に「キングコング」なるRock!な店が出来て、どんどん青山、渋谷に近づき「ガレッジパラダイス」、「シンガポールナイト」が生まれ渋谷の裏通りに巨大な「ピンクドラゴン」が出現した。
 此処からクールスやブラック・キャッツが生まれ、週末の代々木公園では彼等のイカした格好をマネた若者たちが踊り狂っていた。もはや伝説となったピンクドラゴンの生みの親は山崎真行さんだが、其の辺りの物語は森永博志さんの書いた「原宿ゴールドラッシュ」に記されている。
 僕はアメ車が好きで1973年式のエル・カミーノを転がしていたが、ボーリングシャツにリーゼントと云う訳では無かった。どちらかと云えば、70年代の西海岸世代を気取ってスカしていたのかもしれない。
 さて、何故こんな古い話をしたかと云うと、渋谷の街にまたイカした大人の酒場が出来たからだ。しかも、長年「怪人二十面相」や「シンガポールナイト」に携わっていたワカさんこと若松さんとセイキさんが一緒に開いたバーである。
 道玄坂から百軒店に入り「道頓堀劇場」を尻目にズンズンと入って行くと千代田稲荷神社の赤い鳥居が目に入る。神社の真隣りに新しく出来たビルの屋上階に、その酒場「R」が在る。エレベーターのボタンが示すのは「R」階。屋上に無理矢理作った違法建築物件かと思いきや、此処はちゃんと消防検査もクリアしたらしい。
 それにしても、グルり四方を窓が囲っている店なんて滅多にない。台風前夜の生温い風が窓から入り込み、カウンターに座る僕の顔を舐める様に吹き抜ける。円山町のラブホテル街のネオンを見下ろしながら吞む酒はたまらなく滲みる味わいだ。
R 渋谷区道玄坂2-20-9 柳光ビルR階
03-6905-9440