153.岩金酒場の暖簾をくぐり、下町ハイボールで酔う夕暮れ。

岩金酒場

 佇まい其のものが十分存在価値になっている酒場と云う処が在る。上野鴬谷の「おせん」や南千住日本堤の「大林」などがそうだ。曳舟駅から荒川方面へ歩いて行くと店が少なくなった辺りに一軒家の「岩金酒場」が見えて来る。
 四方を蔦に覆われており、古き良き昭和の香りが漂っている大衆酒場だ。陽が沈みかけた群青色の空の下、その建物は風に揺れる暖簾を引き立たせて、自ら存在証明を誇示しているようだ。隣家も取り壊されて仕舞ったので、本当にポツンと佇むと云った雰囲気である。
 暖簾をくぐり、ガラリと戸を開けると優しい笑顔の姉妹がカウンターの中から「いらっしゃい」と声を掛けてくれる。先ずは居酒屋の定番メニュー、ポテトサラダをアテに焼酎ハイボールを戴く。グラスに注がれた焼酎は既に此処独自のブレンドが施されており、炭酸の効いたソーダが横に置かれる。氷無しにすれば、ソーダ1本が丁度良くグラスを満たしてくれるのだ。曳舟、八広、立石と京成沿線の酒場では何処の店もそれぞれの味を誇るハイボールが有るので、コレを呑み歩くだけでも実に愉しい散歩になる訳だ。
 カウンターに座ると、正面には食器棚を覆い隠すかの様に沢山の短冊が貼られている。ハムカツ、あじフライ、豚モツ煮込みと下町の居酒屋定番のメニューがずらりと書いてある。夏の季節は、煮こごりや冷やしトマトが酒のアテに最適だろう。
 すっかり日が暮れる頃になれば、仕事帰りの近所の方々が集い笑い声が多くなってくる。夕飯のおかずのお裾分けを持ってやって来る主婦も居る。お馴染みさんに混じって、ご相伴に預かるのも下町の大衆酒場ならではの優しさだろう。
岩金酒場 東向島6丁目 曳舟川通り沿い