8.日曜の丸好酒場で長閑な午後。

丸好のレバ刺し

 京成線の八広駅から水戸街道方面へ歩いて行くと交差点の角地に「丸好酒場本店」の暖簾が揺れている。その暖簾には、「元祖 レバ刺」と書いてあるのだが、その名の通り、ここの牛レバ刺し、ハツ刺しはすこぶる美味い。冷蔵庫から取り出したデッカい牛レバーの塊りを切り分け、ネギとニンニクの効いた特製のタレをかける。口の中でトロけてしまう美味さは、わざわざ足を運ぶ価値大いに有りだ。親爺さんに聞けば、昔は牛肉を仕入れるとレバーなんぞは只で付いて来たそうだ。新鮮だし、安くて、美味くて、躯に良い、と云うことで先代が刺身にして出したのがレバ刺しの始まりらしい。
 そして、忘れちゃならないのが「特製酎ハイ」。氷無しの焼酎ハイボールは、僅かに下町ハイボールのエキスが香り、炭酸がキリリとして喉が潤う。何杯飲んでも後を引く旨さである。空になったグラスをカウンターの淵に黙って置けば、さっとおかわりを作ってくれるのだ。酎ハイの他にもギネスがある。下町ではギネスなどのスタウトビールは「スタミナビール」と云われ、酒のチェイサー代わりに頼む人が多い。これもまた煮込みやレバ刺しに実に合う。
 その煮込みはかなり濃厚な味である。「モツを食べている」と云う気にさせてくれる程、形のしっかり残ったプリプリ大ぶりのホルモンだ。一度、お内儀さんがモツ煮込みを仕込んでいる所を覗いたことがあるが、こんなにも手間をかけて作っているのかと驚いた。目に見えない手間と努力が仕事帰りの労働者の励みと憩いになるのだなぁ。日曜日は、競馬好きの連中がやってきて親爺さんと一緒にテレビの中継に夢中になりながら酎ハイを酌っている。また、酒の肴以外にもお内儀さんが作るニラ玉や味噌汁などご飯のおかずも旨いものばかり。近所の母子なんかも食事に来たりする。こんな町に根付いた酒場は嬉しい限りだ。
 酎ハイの杯が進むとトイレも近くなる。外にある男子用トイレは日本一小さいのではないか。当然ながら用を足す己はトイレの外に出ることになる。近所の主婦達が行き交う露地で堂々と仁王立ちの図だが、こちとら酒が入っているので、エヘンッとムスコの自慢となる。さぁ、男たるや「丸好酒場」のトイレに立ってみたまえ。
丸好酒場 墨田区東向島6−63−6
03-3611-2420