13. 味芳斎の爺さんが仕込む牛丼で疲れを吹き飛ばす。

味芳斎の親爺

 芝大門の駅を上がると、芝神明商店街と云う小さな通りに出る。そこから芝大神宮の方へ歩くとすぐの角地に小さな中華料理店がある。「味芳斎」(みほうさい)は、午後の仕込みや休憩時間中でも、いつでも「やってるよ」の看板が出ているので遅い昼飯に通える店だ。もちろん,夜も具合がいい。
 ここは漢方医学に則った日本で最初の薬膳中華の店と唱っている。しかし、この店を知っている連中からすれば、可愛いエロ爺さんの店である。今は多少大人しくなったのだが、以前は壁一面にヘアヌードのポスターが張り巡らされていたし、棚の上に在る漢方の瓶にはどれも「不感症に効く」と記されているのだ。馴染みの客は手慣れたものでヤンチャな爺さんの相手をするが、初めての客は面食らうばかり。実際に怒って帰ってしまう人もある。イチャ付いたカップル客が来たときで或る。客「すいません、爪楊枝ありますか?」、爺さん「何っ!おめぇの妻に用事なんかねーっ!」なのだ。こんな会話が日常茶飯事で勃発しているのである。そのくせ都合が悪くなると「俺は三国人だから日本語わかんねぇ。」としっかり日本語で語っているのだから滑稽だ。爺さん、一度病気で店を休んでいたが、今はすっかり元気そうである。やはり薬膳料理と漢方のおかげだろうか。
 味芳斎の名物は重慶牛肉飯、通称「牛丼」である。牛ホホ肉を八角、赤唐辛子などに漬け込み茹でたモヤシと香菜と一緒にご飯に乗せてある。これが、一口食べれば火を噴くほどに辛いのだ。初めての時は食べながら目から泪が出たほどだ。それが妙に後を引き、気が付けば病み付きになる味である。僕は風邪のひき始めや疲れている時には、この牛丼でスタミナを付けることにしている。近くに息子に任せる立派な支店が在るのだが、これだけは爺さん自ら毎日ここで仕込んでいるそうだ。支店の立派さと比べると本店の小ささは天と地の差である。でも僕はこのエロ爺さんの小さなパラダイスをこよなく愛するのである。
 もう一つここのオススメはピーマンレバー炒めである。油で揚げたレバーをシャキシャキのピーマンとにんにくで炒めた料理で、ご飯にも紹興酒にも合う。他にも麻婆豆腐飯、納豆炒飯と美味い料理を挙げたらキリがない。こればかりは回を重ねるしかない。そして、間違ってもここで一万円札を出してはいけない。エロ爺さんに怒られたいなら、そりゃあ話は別だが。
味芳斎本店 港区芝大門1-4-13
03-3431-6543