22. 本当に美味い生ビールはいつもより2杯は多く飲めるのだ。

ビアライゼの生ビール

 その昔、八重洲に小さなビアホールが在った。過去形なのは、今はもう店をたたんでしまったからだ。僕が初めて、その「灘コロンビア」を訪れたのは30歳になる頃だから丁度17,8年前のことだ。ご主人の新井さんは常連さん達から慕われた気さくなお爺さんと云う雰囲気だった。知人に兎に角美味しい生ビールが飲みたければ「灘コロ」しかないよ、と教わった。当時はまだわざわざ足を運んで飲む、など慣れていなかった訳で、たまに東京駅に行った時などに寄って居た。或る時久しぶりに灘コロのビールが恋しくなり、行ってみたら店が無くなっていて随分とがっかりした事があった。
 それから随分とあの美味いビールの味を忘れていたが、オフィスを新橋に作った時に近所を散歩していて、「ビアライゼ'98」なる店を見つけたのだった。仕事場からほんの数分の処だ。夜独りで訪れてみると、カウンターの中に古いビアサーバーが設置されている。とりあえず生を頼んだら、すこぶる美味いビールだったのだ。それ以来何度か訪れて言葉を交わすと、店主の松尾光平さんはあの灘コロンビアでずっと働き、新井さんの只一人のお弟子さんであった。ここで使われている旧式のビアサーバーは灘コロから譲り受けたそうだ。あの名店の味を受け継いだビアホールがこんなにも直ぐ近くに在ったなんて、僕は何ともったいない時間を過ごしたのだろうか。灘コロ時代からそうだったが、他の店で3杯しか生が飲めないとしたら、ここへ来れば5杯は飲めてしまう。また、クリーミーな泡にマッチ棒を刺せば、スッとそのまま沈まずに立って居る。こんな逸話が灘コロのロマンになっていたが「ビアライゼ’98」はその伝説を完璧に現実のモノにしてくれていた。荒井さんのビールをしっかりと松尾さんのビールとして継承しており、何杯でも飲めてしまうのだ。
 メンチカツなどの食事類もとても美味しいので、いつも店内は賑わっている。週末あたりは「灘コロ」時代の常連さんたちが集まって来る。彼らとビール談義を楽しみ、銀座ライオンへ梯子酒なんぞもまた愉しいのである。
ビアライゼ'98 港区新橋5-12-7
03-5408-8639