26. 権ノ助坂の新しい名物は、キリリと冷えた角のハイボールだ。

権ノ助ハイボール

 目黒の大鳥神社は、昨年1200年目を迎えた。毎年11月になると「酉の市」で賑わいを見せる目黒の氏神様だ。
 目黒の駅から大鳥神社方面に下る処の坂を権之助坂と云う。目黒通りガイドブックによると、江戸の中期、中目黒村田道の名主・菅沼権之助が目黒の町に新坂を切り開いた為に罪に問われ死罪になったそうである。当時は江戸市中から白金を抜けて、行人坂を下って太鼓橋を渡り大鳥神社まで通って行ったのだが、この道のりが余りにも急坂で、回り道をしていた為、権之助が新坂を開き、村人たちを助けたそうだ。江戸の道は、敵が攻め難く造られており、直線を避け、見通しの悪いように出来ていたそうだ。役人たちは通行人の利便など眼中になかったのである。昔は行人坂が江戸市中から目黒に通じる幹線道路であったが、明治以降、鉄道と共に新坂が主要道路となっていった。菅沼権之助の功績を称え、この坂は権之助坂と呼ばれるようになった。しかし、権ノ助商店街の歴史は浅く、戦後ポツポツと集まった露店や屋台が定着して、今に至っているそうだ。
 今では飲食店や酒場が多く軒を連ねているが、この坂で美味い酒を出すバーが在る。その名もズバリ「権ノ助ハイボール」だ。バーコートを身に纏ったバーテンダーの武田氏が創る自慢の酒は、キンキンに冷えた角をダブルに入れたハイボールである。グラスも炭酸も酒も全て冷蔵庫で冷やしてあるので、氷は入らない。時間が経っても氷が溶けないので薄まらない訳だが、その前にクイクイと呑めてしまうのだ。大阪の北サンボアに行かずとも目黒でこんな美味いハイボールが呑めるのである。もちろん、カクテルも美味いし、ウィスキーも揃っている。棚に置かれた吉田建一や小島政二郎の随筆に主人の趣味の良さが伺える。まだまだ新しいバーなのだが、ずっと前から在ったような温かさを感じる店だ。菅沼権之助の功績を称え、乾杯でもしようか。
権ノ助ハイボール 目黒区目黒1丁目5-16 サワムラビルB1F
03-3495-5022