32.毎年、この季節になるとニューヨークの牡蛎が恋しくなる。

オイスターバー

 もうかれこれ17,8年くらいになるだろうか。秋から冬にかけて毎年ニューヨークヘ出掛ける。芝居を観に行くとか、観光をする訳でもない。セントラルパークの美しい紅葉を観て、都会の雑踏での吐息の白さと地下から沸き上がる水蒸気の白い風景を観に行くためだ。
 早起きをして公園を散歩し、地下鉄に乗ってヴィレッジ界隈を探索し、何冊か見つけた本やくだらない雑貨を買い漁る。カフェ・レッジオで珈琲を飲みながら、買ったばかりの本を開く。そうやって、のんべんだらりとした休日を過ごすのがこの街の一番素敵な過ごし方なのだ。夕方になるとアルゴンキンズホテルのブルーバーに寄って、マティーニとマンハッタンをオン・ザ・ロックで戴く。
 さて、腹が減ってきたらグランドセントラル駅の構内へ向かおう。仕事帰りの連中に交じって、グランド・セントラル・オイスターバーのテーブルに着く。クラムチャウダーを戴き、生牡蛎を数種類選んで白ワインを楽しむ。今では一年中美味しい生牡蠣が食べられる時代になったが、やはり旬の物は旬が美味い。吐息が白くなってからの生牡蠣は矢張り最高だ。
 そして小さな休日が終わり、東京に戻ると暫くの間、僕のニューヨーク病が始まる。数日の時差惚けが終わると無償にNYの牡蛎が恋しくなるのだ。が、こんな僕のワガママを見事に解消してくれる店が3年程前、品川駅に出来た。本店に次ぐ2号店目となるグランド・セントラル・オイスター・バーである。新幹線も乗り入れる大きな駅に在ると云うことが、もうグランドセントラルなのだ。
 ワシントンで獲れる「クマモト」のクリーミーで濃厚な味は本店とまるで同じだ。また、東京店ならではの厚岸産も志摩の的矢牡蛎も生が美味い。広島産の小町は、頼めば日本風のカキフライにしてもらえるので、これまた絶品だ。
 この店、本場ニューヨーク店に負けず劣らず美味い牡蛎を楽しめるが、何時も混んでいるのが難点である。年中無休なので、週末の午後3時過ぎに行くと予約をせずに難なく入れる事が多い。バーカウンターで一杯引っ掛けて待っていればすぐにでも案内してくれるのだ。こんな所もニューヨークを思い出させてくれる。
グランド・セントラル・オイスター・バー&レストラン 
港区港南2-18-1 アトレ品川4F 03-6717-0932