33.麻布十番の散歩が終われば、浪花家で一休み。

浪花家のたいやき

 都営大江戸線が開通し六本木ヒルズが出来てから、麻布十番への人の流れが大きく変わった。それまであの辺りは交通の便が悪く、クルマで行動していないと中々不便であった。でも、まぁそのお陰でチャラチャラした若者がたむろする事も無く風情或る大人の街を色濃く残していた。それまでは、六本木から芋洗い坂を下るか、東洋英和の女学生たちで賑わう鳥居坂を下る。または飯倉片町辺りを抜けて麻布永坂を下って麻布十番商店街まで歩いたが、最近はヒルズから六本木けやき坂通りやさくら坂を散策しながら鳥居坂下あたりまで来る道のりが良い散歩道となった。
 程よい散歩を終えて小腹が空いたら、「総本家更科堀井」のさらしなそばが良い。麻布十番には三軒の「更科」が在るのだが何れも全く別の経営である。元は堀井家から始まった更科そばだが、戦後のさまざまな事情により「永坂更科」や「布屋太兵衛」の屋号だけが他に渡っていったらしい。
 そばの後は、食後の甘味が欲しくなるのだが、程よい甘さとパリッと香ばしく焦げた薄皮が持ち味の「浪花家総本店」のたいやきが良い。創業は明治四十二年の歴史を誇り、開業以来変わらぬ製法で鯛焼きを作り続けている老舗だ。浪花と云えば大阪であるが、初代神戸清次郎さんが浪花生まれだったので、浪花家になったとの事。
 暫くの間、改装の為に別の場所で営業していたが創業の地に戻って新装開店した。老舗のたいやき屋も時代と共に歩んでいる。併設の「ナニワヤ・カフェ」では、並ばず気軽にたいやきとお茶のセットも楽しめる。たいやきの他にも新作の「浪花家ロール」がしっとりして大変美味しい。これは、鎌倉・小川軒とコラボレーションした人気商品だ。ロール1,300円と手頃なので手土産に持ってこいだ。
 数年前まで毎日店で鯛焼きを焼いていた明治生まれのモダンなおじいちゃんもカフェでお客さんと愉しそうに談笑している姿が見受けられる。こんな老舗が永く続いているのが嬉しい。

浪花家総本店 港区麻布十番1-8-14
03(3583)4975