37.円山町、ホテル街に消える前にムルギーカレーで燃えて行け。

ムルギーカレー

 渋谷、道玄坂を上がると「しぶや百軒店」と云うアーチが見える。今でこそ、円山町辺りは風俗店が密集しているが、関東大震災以後の復興に伴い、百貨店の様な都市空間を再現しようと計画されたのが百軒店であった。昔は置屋が並ぶ花街であり、露地を入っていくとその頃の面影も所々残っている。
 ここに「印度料理 ムルギー」と云うカレー店が在る。昭和26年創業、もう56年もスパイシーなカレーを作り続けている。レンガ造りの入口も店内も創業時から何も変わらず、古き良き昭和の香りを残してくれて居る。僕が初めてここを訪れたのは18歳の頃だから、もう30年近く前になる。当時はお爺ちゃんとお婆ちゃんが店を切り盛りしていたが、お爺ちゃんは1万円札で支払うと必ずと言っていいくらいにお釣り勘定が判らなくなり、こっちが数えてあげる事が多かった。まるで、落語の「時そば」の様だが、あのお爺ちゃんの姿は今はもう居ない。その分、まだまだ元気なお婆ちゃんがムルギーカレーの味を守り続けている。
 サラサラとしたカレールゥは、ひな鶏(ムルギー)をベースに10数種類のスパイスで調理されておりこの店独特の味になっている。何故か不思議なのだが、エベレスト山脈をイメージしたと云う三角山盛りのご飯の麓に、カレールゥがこれまた湖畔の様にかかっている。
 ここでは、「玉子入りムルギーカレー」がオススメだ。湖畔の様なルゥに薄くスライスされたゆで卵が浮かんでおり、生クリームがかかっている。食べているとじわじわと汗が出てきて、ムルギーカレーの味の奥深さが感じられる。皿に添えられた甘いチャツネーも少しずつカレーに溶きながら食べると、実に旨い。
 昔は入って席に着くなり、おじいちゃんが「はい、ムルギー玉子入りね。」ってメニューを勝手に決めてしまうのが可笑しかった。そう云えば、これだけ永く通っているのに、玉子入り以外の印度料理を食べたためしが無い。たぶん、この先もそうなんだろう。近くの千代田稲荷に商売繁盛の願を掛けた帰りにでも寄ってみて欲しい昭和の名店だ。
印度料理ムルギー 渋谷区道玄坂2-19-2
03-3461-8809