39.小石川後楽園の帰り道、エス・ワイルで深い秋を味わう。

エスワイルのモンブラン

 野球のシーズンが終わっても、後楽園に足を運ぶ事が多い。小石川後楽園の秋がまことに見事だからだ。寛永6年、水戸徳川家が江戸の上屋敷の庭として造った庭園は、池を中心にした回遊式泉水庭園になっており、何処を切り取っても絵になる景観を楽しめる。琵琶湖の景色を模した大泉水、水面に満月が映る様な円月橋など日本が誇る名勝の美をじっくりと堪能できる名庭園だ。春のシダレザクラも見事だが、11月の紅葉まつりも実に素晴らしい。
 さて、江戸の大名庭園で深い秋を味わった後は、美味しい秋も楽しみたいものである。紅葉の季節になると栗を使った菓子が旬である。和菓子の栗きんとんと云えば岐阜・中津川の「すや」が有名だが、和栗をふんだんに使った極上のモンブランをこの時期だけ作っている洋菓子店が小石川後楽園から程近い春日に在る。昭和30年創業の老舗洋菓子店「エス・ワイル」だ。
 ここの「モンブラン・オ・マロン」は、従来のモンブランとは違いスポンジケーキを使わず、栗の持つほっこりした食感をそのまま残したクリームにたっぷりの生クリームが乗っている。マロンクリームの方だけを食べていると和菓子にも近い味わいなのだが、生クリームを少しずつ絡めれば極上のモンブランが口一杯に広がるのである。
 店名の「エス・ワイル」は横浜のホテル、ニューグランドの初代シェフ、サリー・ワイル氏に由来している。先代が当時、ワイル氏の元で菓子造りをしており、自分の店の名に戴いたそうだ。3年前までは神田・小川町で営業しており、古い店ながらもハイカラな洋菓子で評判であったが、春日に移転してからも変わらぬ人気を誇っている。
 小石川後楽園の紅葉見物の帰りに是非とも味わって欲しい極上のモンブラン。1個790円であるが、決して高くない。これこそ深い秋の味と云う物だろう。
エス・ワイル 東京都文京区春日1−12−6
03-3812-7520