40.寒い季節の到来。ばんのとんび豆腐で一汗かくとしよう。

ばんのレモンサワー

 祐天寺に「もつやき ばん」と云う居酒屋が在る。以前は中目黒に在った老舗だ。当時からその店はひっきりなしに混んでおり、もつ焼以外にもメニューが豊富で、レバカツも美味しかった。座るとすぐに人参、大根、胡瓜のお新香がお通し代わりに出て来るのだがこれまた旨い。
 昭和33年、小杉正さんが生家を立て直して始めたもつ焼きやだ。中目黒で47年もの間地域の人々に愛され続けていたのだが、目黒区役所の移転、再開発などにより「ばん」の在った処もビルに立て変わる事になった。もつ焼で飲む庶民の店がビルに入って居たら何か違うでしょ、と店を閉めてしまったのである。
 もう店はやらないつもりだったのだが、お客さん達の熱いリクエストに応え、それから暫くして、祐天寺に暖簾を出した。今のマスターは先代の弟の小杉潔さんである。今はもう店には出ていないが、先代マスター小杉正さんも必ず仕込みの時だけは手伝っている。これが、変わらぬ美味さの秘密でもある。
 焼酎の炭酸割を「サワー」と呼ぶが、これもここ「ばん」が発祥の店である。40数年程前、焼酎は安酒でメジャーではない代物であり、更に炭酸割りは「炭酎」(たんちゅう)とか「酎炭」(ちゅうたん)の呼び方で余りにもパっとしなかったのだ。小杉正さんは、お客さんだった博水社の社長と一緒に新しい呼び名を考えに考えた。洋酒バーではジンの炭酸割りをジンサワーと呼んでいるのだから、これも「サワー」と呼ぼうと云うことになったのだ。そして、ここの生レモンを絞るサワーが飛ぶように人気だったのをヒントに博水社の社長は、甘いレモン味のサワーを開発することになったのである。それから完成した商品の名前に「ハイ」を付けたのだった。博水社は今でも「ハイ・サワー」が看板商品である。
 「ばん」にはサワーを飲みながら、無性に食べたくなる絶品メニューがある。その名は「とんび豆腐」、そう豚の尾だからトンビなのだ。豆腐、ネギと一緒にトロットロに煮込んだ豚尾は唐辛子が効いてレモンサワーが進む々々。寒い季節にたまらない逸品だ。
もつやき ばん 目黒区祐天寺2-8-17
090-4706-0650(マスター直通)