47.野口英世一枚で酔える富士屋本店はオヤジたちのオアシスだ。

富士屋本店

 JR渋谷駅から246を渡り線路と桜ヶ丘の間の道を入った処に「富士屋本店」の看板が出ている。夕方6時を廻れば、人と人の隙間を縫って入らなくてはならないほどだ。
 どの肴も150円からなので毎日晩酌したい輩には、懐に大変嬉しい店である。たまに350円の料理など注文すると「今日は随分と贅沢しちゃったかナ」と思う程、安くて旨い一品を出してくれる。
 揚げ物、焼き物、刺身、煮物、野菜類と品数が豊富で、昔母親が作ってくれた様な何処か懐かしい味ばかり。冬の季節の湯豆腐も人気メニューだ。煮込みがある時はそこへ湯豆腐を入れもらうと、とびきり旨い。中でも一番人気で誰もが頼むのが名物「ハムカツ」だ。マヨネーズのかかった千切りキャベツに揚げたてのハムカツ三本にソースがとろりとかかっている。漫画家のしりあがり寿氏もここのハムカツが好きらしい。店内にはあの「地球防衛家のヒトビト」の家族の色紙が飾ってあり、「わーい、ハムカツだーい!」と描かれているのである。
 酒もビール大瓶が450円、日本酒だって「寒梅」の1合徳利が280円である。焼酎は緑色の瓶に注がれた「いいちこ」が良い。炭酸とレモンを別にもらって自分で割るサワーも良し。ここは酒がとにかく安いのが嬉しい。慣れないお客が「おばちゃん、小皿頂戴!」などと叫ぶもんなら「ウチはそんなもん出さない分、酒も料理もグンと安くしてるんだよ〜!」と切り返される。そう、極力コストを抑えて、僕らに憩いを提供してくれる酒場なのだ。キャッシュオンデリバリーなので、カウンターに着いたらまず野口英世を1枚置く。それを基準に飲み過ぎたかを考えながら酌るのが愉しい。
 では、大声で「ビール大瓶1本にハムカツ1つ、それに湯豆腐もね!」、これでもお釣りが来るのだ。この店に来れば判るが、どのお客も実に愉しそうな顔をして呑んでいる。心地良く酔ったら帰り際にきっと「また明日!」って階段を登ることだろう。
立ち飲み富士屋本店 渋谷区桜丘町2-3 B1F
03-3461-2128