54. 冬だって生は旨い。ランチョンのカキフライも待っている。

ランチョン生ビール

 旨い生ビールなるものは一年中飲みたい次第だ。銀座に居れば中央通りの「ライオン銀座7丁目店」にて名人海老原さんの注ぐサッポロ生が飲みたい。新橋ならば「ビアライゼ‘98」の松尾光平さんのアサヒ生、新宿に居れば小田急ハルクの地下に在る「新宿ミュンヘン」の八木さんの注ぐサッポロ生が良い。どの店もビール注ぎの名人が居るので連日盛況である。
 さて、神田神保町界隈は古書街を散策し、掘り出し物を探す古本漁りをするのが週末の楽しいひとときである。気に入った本が見つかれば、早々にどこかに腰を落ち着けて頁をめくりたいものである。
 そんな時に立ち寄りたいのが神保町靖国通り沿いの老舗ビアホール「ランチョン」だ。ここも代々名人が注ぐ老舗である。
 創業明治42年、洋食屋としてスタートした当初からビールを出していたと言う洒落た店である。しかしこの店、創業時に店名が無かったそうだ。廻りに同業者が居なかったので、特に付けなくても「洋食屋」で通っていたらしい。そして、常連だった近所でも一段とハイカラな音楽学校(現藝大)の方たちが「ちょっと気取ったランチ」との意味から「ランチョン」と横文字で呼ぶようになったのだ。ただ、初代の主人はそれが何語でどんな意味なのかも知らずに、ありがたくその名を頂戴したそうだ。何とも微笑ましいエピソードである。
 この店の生ビールも代々名人が注ぐ。ビールの温度も程よくゴクリと飲める塩梅である。先代はお客さんの顔を見ただけで、その人好みのビールと泡のバランスを変えて注いだそうである。「町の洋食屋」として明治から変わらぬ味を守っているのも良い。特に生ビールにはカツサンドやメンチカツがマッチする。そして秋から冬は生牡蛎を揚げたカキフライが素晴らしい。付け合わせのマカロニサラダも懐かしい味だ。土曜の夕暮れ、ランチョンで飲むアサヒの生、一杯590円の幸せである。
ビアホール ランチョン 千代田区神田神保町1−6
03-3233-0866