53.寒い季節、井上蒲鉾店のかまくら風味おでんで一献つけたい。

かまくら風味おでん

 蒲鉾の歴史は古い。功皇后が三韓渡航の途中、神戸生田の杜で鉾の先に魚肉をすりつぶしたものを塗り付けて焼いたものが最初であると伝えられている。また、「類聚雑要抄(るいじゅうぞうようしょう)」と云う平安時代の古文書の中に、貴族たちの祝賀料理の献立に「蒲鉾」の絵図が出ている。この頃は、魚のすり身を竹の棒に塗り付けて、炙った竹輪の様な食べ物だったそうだが、その姿形が蒲の穂子に似ていた事から「蒲鉾」(蒲穂子)と呼ばれるようになったそうだ。
 鎌倉駅から御成通りを抜け、六地蔵の先に「井上蒲鉾店」の本店が在る。江の電の和田塚駅からは歩いて一、二分の距離である。瓦屋根の佇まいが蒲鉾の味をより一層美味しそうな気分にしてくれる。
 ここが造る蒲鉾は素材が確かである。体調40センチ程の白身魚「ぐち」から脂肪分の少ない部位だけを選んで蒲鉾にしている。上質な素材を丁寧に石臼で練り上げて造るので、程よい弾力の歯ごたえと魚本来の風味を味わうことが出来る。
 井上蒲鉾店では、沢山の種類の蒲鉾を造っているが、中でも人気なのが「梅花はんぺん」と「小判揚」だ。鎌倉に咲く梅の花を型取った梅花はんぺんは、お碗の種に適しているが、バター焼きにしても大変美味しい。また、銭洗弁財天の縁起ものにちなんで造られた小判揚げ蒲鉾は胡麻油の風味が香ばしく生姜醤油で戴けば良い酒の肴になる。
 寒い冬の季節は「かまくら風味おでん」が良い。小判揚げ、梅花はもちろん、つみれ、ごぼう巻き、海老巻きなど沢山のおでん種が入っている。そのまま食べてもすこぶる美味しいが、矢張り熱々のおでんに限る。日本酒を一献つけながら、誰かと一緒に鍋を突きたいものである。
 鎌倉駅からすぐ若宮大路に面した鎌倉駅前店では、二階に在る「茶寮いの上」で美味しい食事と甘味を味わうことが出来る。窓の向うには鎌倉の古都と祇園山を望め、心和むひとときを愉しむのも良い。
井上蒲鉾店本店  鎌倉市由比ガ浜1-12-7
0467-22-1133