58.天すけの天婦羅は庶民の味。外で待つのも心が弾むのだ。

天すけ玉子天ご飯

  高円寺は毎年8月に間催される「東京高円寺阿波おどり」が有名で、その時ばかりは溢れるほどの見物客が集まってくる。踊り手も一歳の赤児から八十過ぎの翁まで年齢層も幅広く、高円寺のみならず、様々な地域から参加している。本場徳島を凌ぐ阿波おどりは東京の真夏の風物詩だろう。
 中央線の高円寺駅北口を出て、露地を進むと華やかな電飾とエロさムンムンのキャッチーなコピーが一面に張り巡らされているピンサロ街となる。ここ、女性の方々って通れるのだろうか、と思うほど凄さまじい通りなのだ。この猥雑な露地を抜けた辺りに、安くて、旨い揚げたての天婦羅を食べさせてくれる大衆的な天婦羅屋が在る。
 「天すけ」は白木のカウンターのみで終日お客さんがひっきりなしに訪れる町に馴染んだ名店だ。都心あたりで目の前で揚げたての天婦羅を食べながら酒を呑もうなどと思ったらすぐ一万円札が飛んで行ってしまうのだが、ここは驚きの価格である。盛り合わせ天婦羅定食が1,200円。しかも目の前で、大将が揚げたてを次々とカウンターの前に出してくれる。
 季節によって素材も変わるが今の時期ならば、海老、イカしそ巻き、鱚、わかさぎ、茄子、海老かき揚げ、ピーマン、かぼちゃである。これにご飯と味噌汁が付いてこの値段なのだから恐れ入る。
 また、天婦羅をアテに酒を呑む連中は、ご飯を〆まで待ってもらう。ここの名物が玉子天婦羅であり、これを最後ご飯に乗っけてもらい崩しながら食べるのが絶品である。普通は天たれを掛けて食べるのだが、これを醤油に変えて黄身にかけるのも格別。
 江戸の頃から、寿司や天婦羅は庶民が気楽に食べられる食いもんだった訳だが、ここに来ると改めてそう思わせてくれる。安くて旨いので、つい追加して食べ過ぎてしまうのが玉に傷か。常に混んでいるが、外で待てばすぐに空く。胡麻油の香ばしい匂いに腹が鳴るのである。
天すけ 杉並区高円寺北3‐22‐7 プラザ高円寺
03-3223-8505