60.年の瀬は「芝浜」を聴き、たねやのふくみ天秤を味わう。

たねや/ふくみ天秤

 年の瀬になると落語の世界も歳末の風物を描いた噺が多く掛かるようになる。「ねずみ穴」「富久」「文七元結」などお馴染みの名作揃いだが、その中でも一番人気が高く、また多くの落語家たちが演じている噺は「芝浜」だろう。
 人情話の傑作であり、三代目桂三木助が十八番としていた題目である。また、古今亭志ん生の「芝浜」も素晴らしい。
  毎日、毎日仕事もしないで酒ばかり飲んでいる魚屋の熊五郎。借金だらけの日々が続く中、暮れも押し迫り、いよいよ困り果てて女房に追い立てられるように魚を売りに出ることになる。ところが、女房が間違えて暮れ一つ早く起こしてしまい品川宿ではまだ河岸が開いていない。眠い目を覚まそうと、浜に入り海水で顔を洗おうとすると足に何かが引っかかった。分厚い財布である。こりゃ、運が良いと飛んで帰り、喜び勇んで仲間を招いて酒盛りをする。次第に眠りこけて、目を覚ますと「何、とぼけた夢をみてるんだよう。そんな事有る訳ないだろうに。それにこの酒代,飯代はどうするのさ」と女房に泣きつかれる始末。
 何だ夢だったのかと落胆し、そこから熊五郎の反省の日々が始まるのである。禁酒をし、日夜猛烈に仕事に精を出し、二年間必死になって借金を返し、熊五郎が女房に「人間はやっぱり真面目に働かなきゃいけねぇ。」と云うと、女房がホロリと「お前さん、今何て言ったんだい」と嬉しい涙をこぼすのだ。そうして、あの時、本当に五十両の大金が入った財布を拾って、お上に届けたが持ち主不明で手元に戻ってきた、と白状するのである。ここからは、聴いている方が涙を流すのだが、この熊五郎の仕事は店を持たず、河岸で仕入れた鮮魚をタライに入れ、それを天秤棒に通し、担いで売り歩く「棒手降り」と云う魚売りだ。
 滋賀県近江八幡で菓子屋を営む「たねや」の銘菓の中に「富久實天秤」(ふくみてんびん)なる最中がある。求肥の入った粒餡を食べる直前に最中種に挟んで自分で作る最中は造りたて、出来立ての味を堪能できる。
 年の瀬に「芝浜」を聴きながら、改心した熊五郎の担ぐ天秤を想い、しみじみとこの最中を食べてもらいたいものだ。
たねや(通販本部) 滋賀県近江八幡市宮内町 日牟禮ヴィレッジ
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