63.迎春、甘春堂の貝合わせで芽出たい春を合わせたい。

甘春堂貝合わせ

 今年は子の年である。僕も気が付けば、あっと云う間に4度目の子年を迎えてしまった訳だが、今年はより一層めでたい一年にしたいものである。
 この「めでたい」と云う言葉、何故に「めでたい」のか。新年の朝日新聞に出ていたので、紹介したい。
 今から153年も前の事。山口県、荻藩の野山獄に囚われていた或る男が、元旦に妹に手紙を出した。正月には「新年おめでとう」と云うが、何故新年はめでたいのか。その訳を、手紙の中で説明していたのだ。
 めでたいの目は目玉のことでは無く、木の芽、草の芽の事だそうだ。冬至から一日一日と、陽気が生ずるに従い芽が萌え出る。「一陽来復」の通り、陽気は天地にも人にも良い運気なので、陽気が生じて、草も木も芽が出たいと思うので、「おめでたい」と云う事である。そして人間の場合は、新年を迎え、汚い心を洗い流し、人間の本心である優しい気持ちに戻ること。これこそが、「新年おめでとう」の本意と記した。
 この囚人の名は吉田松陰。ペリーの黒船に潜り込み、アメリカ密航を企てた危険人物として囚われていたのだが、出獄後、春の陽気の如く、人の育成に精進した。 そして、伊藤博文高杉晋作らを育てた大変偉い人なのである。
 吉田松陰松下村塾を開いた頃、京都では藤屋清七と云う男が鴨川の近くで菓子を造り始めた。現在も川端正面橋東に在る「甘春堂」は江戸後期より代々6代も続く京菓子の老舗だ。
 芽出たい正月を祝う宴には、おめでたい蛤を用いた生菓子「貝合わせ」を贈りたいものだ。貝合わせとは平安時代の貴族達が遊んだ歌合わせである。蛤の貝殻は他の蛤の殻を合わせてみても、形や模様が絶対に1対1でしか二つがぴたりと合わない事から夫婦和合、家族円満の縁起物として祝膳に使われる。甘春堂の「貝合わせ」は甘く炊いた丹波黒豆を葛で包み、金粉を散らした陽春に相応しい菓子である。
京菓子司 甘春堂本店 京都市東山区川端通正面大橋角
075−561−4019