76.梅の開花が近づいて来た。船橋屋の元祖くず餅で遥かなる浪漫を味

船橋屋のくず餅

 亀戸の天神さまには約300本もの梅の木が境内に所狭しと植えられており、二月上旬から徐々に美しい蕾みが花開いてくる。
  東風(こち)吹かば匂いおこせよ梅の花
             主なしとて春をわするな
 これは菅原道真太宰府への左遷直前に詠んだ歌として広く知られている。この梅の枝が道真公の後を追っかけて太宰府まで飛んで行ったと云う「飛梅伝説」も伝えられている。
 亀戸天神では、毎年二月中旬から三月中旬頃まで「梅まつり」が催される。梅の開花によって日程も変わるが今年は第二日曜から始まるそうだ。境内には見事な紅梅や白梅が咲き誇り、その芳香もまた素晴らしいものである。桜とはまた違う清楚な梅花には、時折メジロが梅の蜜を吸いにやってくる。赤い太鼓橋の向こうの紅白梅、そして抹茶色のメジロの姿、それはもう釘付けになる程愛らしい光景である。
 普段ならば、天神様をお参りした後のお楽しみは「亀戸餃子」で餃子をアテに一杯やりたいところだが、道真公の時代へ遥かな浪漫を偲び、メジロの鳴き声に心和みながら天神様の隣に佇む「船橋屋」で銘菓「元祖くず餅」を味わいたい。
 船橋屋のくず餅は、小麦粉のでんぷん質を地下天然水で15ヶ月もの間乳酸発酵し、長時間熟成させており、上品な餅に仕上がっている。秘伝の黒蜜と荒めに挽いたきな粉が絡まり絶妙な味を生み出すのである。
 「新撰組異聞」なる話の中の事。幕末の時代、新撰組沖田総司が鈴と云う娘子に「葛を使わないくず餅屋が江戸に在る。」と云う話を語っている。少女と花咲く前の藤棚を眺めながら「黒蜜をかけて、黄な粉を振りかけて食べるのだ。」これは、きっと天神様横「船橋屋」なのだろう。藤棚を見て、亀戸天神の藤の花を思い浮かべたのだろうか。おや、こんな所にも浪漫があった。
亀戸天神前本店 江東区亀戸3-2-14
03-3681-2784