78. 新橋の天はるは、何故だか妙に肌に馴染む天麩羅屋だ。

天はる

 とびきり美味い天麩羅が喰いたきゃ、茅場町の「みかわ」とか、日本橋「てん茂」あたりが良い。客人を招き接待に使うのならば神楽坂「天孝」、銀座「近藤」が浮かぶ。でも、不意に「あぁ、昼飯は天麩羅でも喰おうかなぁ。」と思った時は迷わず新橋西口に佇む「天はる」の暖簾をくぐる。
 戸を開くと何だか薄暗い店内はいつも通りである。天丼を頼むとお茶とお新香をさっと出してくる。此処の何が良いかと云えば、何処となく侘びた店内。ぽっかりとここだけ時間が止まってしまったんじゃなかろうか、と云った風情なのだ。此処より美味い天麩羅屋は都内に沢山在る。それでも、妙に来たくなる何かを持っているのだ。天麩羅を揚げる親父さんも、暖簾をくぐる客たちも可成りの年配だ。此の店のすべてから醸し出される雰囲気に何故か心惹かれて訪れてしまうのである。
 午後に人と会う予定が無い時は瓶ビールを貰う。胡麻油の香ばしい香りをアテに、親父さんが天麩羅を揚げる姿を眺めながら呑むビールは格別である。
 「天はる」の天丼は並が930円、天丼(中)でも1,050円と実に良心的な設定だ。天丼に入っている小さなかき揚げが海老や小柱では無くてイカなんである。四角いサイの目に切ったイカは歯ごたえがあるので、好き嫌いはあるだろうが僕は結構気に入っている。
 昨年閉めてしまった築地の「いしい」は揚げたての天麩羅をジュっと天タレにくぐらせて丼に乗っけるスタイルだったが、「天はる」は揚げた天麩羅をご飯の上に乗せ、その上から天タレをかける。このタレも余り甘くなくあっさりしているのでビールに合うのだ。程々の味で程々の時間を過ごす。「天はる」は、そんな町の天麩羅屋である。
天はる 港区新橋3-17-8
03-3431-8068