89.京都の夜の始まりは、新京極スタンドに限る。

京極スタンド

 京都を訪れると必ず立ち寄る処が在る。朝一番は「イノダコーヒ」の珈琲で目を覚ますが、仕事の後は此処である。四条通りから新京極へ向かいアーケードに入ると、何ともモダンなロゴの暖簾が目に飛び込む。新京極アーケードの中に在る「京極スタンド」は昭和3年開業の大衆食堂だ。
 仕事を終えた夕暮れ時、まずはビールで喉を潤し、オムライスをかき込むのである。ふわとろの卵の上にたっぷりとかかったケチャップが妙に懐かしい味だ。ビールは一本で止めて、月桂冠の熱燗を酌る。
 ここの酒は基本が月桂冠だが、黙って熱燗って頼むと一級酒が来る。これが確か420円だったかな。そしてもっと安い二級酒も有るので懐具合で楽しめる名店である。
 細長い大理石のカウンターは実に居心地が良い。数人の気さくなオバちゃんたちがチャッチャッと注文を聞いて、伝票に赤鉛筆でチェックを付けて行く。この「スタンド」オリジナルの注文伝票も味のあるデザインなのだ。
 湯とうふ470円をアテに燗酒が更にすすむ。京で湯豆腐ならば「南禅寺に限る」と言われそうだが、僕は「スタンド」の湯豆腐がお気に入り。京都市民に親しまれている大衆食堂だけに料理も和・洋・中と多彩に用意されている。オムレツや煮込みハンバーグなどの日替わり定食やビフテキのスタンド定食も人気で、腹が減った時も大助かり。
 観光客の多い新京極で、「スタンド」は近所のオイちゃんたちに愛されている。余り酔い過ぎず、いい頃合いを見計らって席を立つ。引っ切りなしに混んでいるので、引き際も大事。会計をお願いするとオバちゃんがそろばんをパチパチと弾く。その姿もまたこの店の魅力なのである。
京極スタンド 京都市中京区新京極通四条上ル中之町546
075-221-4156