88.働く人の酒場、牛太郎で今夜も襟を正して呑ませて戴く。

牛太郎

 武蔵小山の駅を出て数分、信号を一つ超えた辺りに風情在る暖簾が揺れている。紺地に白抜きで「牛太郎」と染め抜かれた暖簾は、それをくぐる客を選ぶのである。引き戸の上の看板には「働く人の酒場」と書かれているのだから、この店は、汗水垂らして仕事をしている人だけのオアシスなのだ。
 年期の入ったコの字カウンターは、開店と同時に満席となる。平日は午後4時、土曜は2時から営業が始まるが、皆その前から待っているのである。平日の仕事帰り、午後6時頃になると後ろの待ち合い席で小一時間程待つことになるのだが、そこで待つひと時もまた愉しい。知った顔が次から次とやって来て挨拶を交わす。
 ホッピーを頼むと氷を入れるかどうか聞いてくれるし、知り合いが来れば、他の常連さんに頼んで席を譲ってくれる。こんな、さりげない気遣いがとても嬉しい。  
 皆から社長と呼ばれる女将さんを始め、誰もが皆優しい。ここ数年は新しいお客さんが増えたそうだが、以前は女性一人客など滅多に来なかったそうだ。まさに労働者の憩いの場だったのだが、今では新しいお客さんも多く、常連さんたちも色々と店のシステムを教えてくれたりして、随分と気を使ってくれて優しい。 
 お新香70円、煮込みもレバ刺しも100円、名物「とんちゃん」が110円、そして串物はどれも70円である。250円の「豆腐入り煮込み」などを頼むととっても贅沢した気分に浸れるのだ。千円札一枚で十分酔い心地である。
 気分良く、安く美味いアテで呑める訳だから、引っ切りなしに混んでいる。此処は小1時間程で席を空けるのが、云わずもがなのマナーである。良い歳を重ねたお客さんが多いが、皆とても礼儀正しい。そう云う方しか入れてもらえない『働く人の酒場』なのだ。
牛太郎 品川区小山4-3-13
03-3781-2532