112.もんじゃだけが月島名物じゃない。レバフライ片手に路地裏歩き。

ひさご家阿部

 月島と云えば、先ず思い起こすのが「もんじゃ焼き」だろうか。只、余りにもんじゃ焼き店の数が多すぎて、何だか此処で食べる事自体が便乗商売に乗せられている様に感じて仕舞うのだ。
 此の辺りは、銀座の隣町だと云うのに、今も路地や長屋が多く残っており、情緒溢れる下町である。四方田犬彦は此の町の長屋に住み、人々との触れ合いや埋め立て地の町の歴史を通じ、「月島物語」と云う秀作を書いた。鍵を掛けなくても、玄関にチャイムが無くても、何も問題ない平和な「月島」を、都市論の形式をとった素晴らしい文章にまとめていた。
 此の町には、もんじゃ焼きの他に「レバフライ」なる隠れた名物が有る。牛のレバーを薄くスライスして、端っこに竹串を刺し、パン粉を付けて油で揚げた駄菓子料理なのだ。「月島物語」にも登場するのだが、1920年代には「肉フライ」として屋台で売って居たらしい。近くの佃島に造船所が出来ると、埋め立て地の月島界隈には労働者が沢山移り住む様になり、彼等に安くてスタミナが付く栄養食としてレバーが月島で流行ったそうだ。
 明治、大正時代とは変わり、今は豚のレバーが主流であるが、今も数軒ほど「レバフライ」を扱う店が在る。肉屋さんや定食屋さんなどだが、長屋の風情を残し、下町月島を感じさせるのが、昭和24年創業の「ひさご家阿部」だ。
 注文をしてから揚げて、特製ウスターソースに浸すので、出来立てを味わう事が出来る。冷めても美味しいし、菜種油で揚げてるので、胃にもたれず何枚でもペロリと食べれて仕舞うのだ。レバフライ片手に路地裏を歩くのも、月島の愉しい過ごし方である。
ひさご家阿部 中央区佃3-4-13
03-3533-4955