114.大手まんぢゅうで一服し、岡山後楽園の庭を思い出す。

大手まんぢゅう

 岡山の銘菓と云えば、真っ先に浮かぶのが吉備だんごだろう。其れも広栄堂武田の元祖吉備団子である。ずっと永い間、僕は岡山の土産と云えば、吉備だんごに決まっていた。岡山市内は街中の至る処に桃のオブジェや像が建っているのだ。そう、桃太郎発祥の地なのだから、桃太郎のお腰に付けた吉備だんごが岡山名物なのは至極当たり前の事だった。
 ところが、先日岡山の土産に「大手まんぢゅう」なる菓子を戴いたのだ。一つひとつ丁寧に包装された、実に上品な饅頭である。
 天保八年創業で、初代伊部屋永吉が、当時の備前藩主池田侯から茶会の席には必ず伊部焼の茶器と共に此の饅頭を愛用されたそうだ。饅頭の名称も、伊部屋が岡山城大手門の近くに在ったので藩侯から名付けてもらったのだとか。 
 岡山は昔から備前焼きが有名である。焼き上がった茶器の表面は釉薬と生地の色が微妙に斑の模様を作り、其れが見事な風合いとなっている陶器だ。此の大手まんぢゅうも饅頭の薄皮が本当に極薄で、中の漉し餡が薄皮から透けて見えており、白い斑模様になっている。狙ってそうしている訳では無いのだろうが、何処となく備前焼きの器の様に見えるから不思議だ。
 包みを開けると鼻に甘酒の様な仄かな酒の香りが漂って来た。説明書きを読むと酒粕を使っているからであり、なるほど小豆の漉し餡の甘さと甘酒のコクが絶妙に絡むのである。
 備前伊部焼きの器で渋めの煎茶を一服。お茶受けに大手まんぢゅうが有れば、気分は後楽園を眺める岡山城の藩主である。しかし我が家には、備前焼きの茶器が無かったのだった。
大手饅頭伊部屋 岡山県岡山市京橋町8-2
086-225-3836