126.桜が終わり、つつじ咲く。坂本屋の柏餅で端午の節句を待とうか。

坂本屋

 四谷の銘菓と云えば、真っ先に浮かぶのが鯛焼きの「わかば」だろうか。散歩途中の買い食いにはお薦めだが、手土産の和菓子ならば「坂本屋」に限る。
 四谷駅から新宿通りへ渡り四谷見附の交差点近くに在る和菓子の老舗「坂本屋」はお使い物や手土産に最適の店だ。創業明治三十年、風情在る店も戦後まもなく建て替えたそうなので、可成り年期が入った佇まいだ。春頃からはガラスの戸が解放されていて、吸い込まれる様に入って仕舞うのである。
此処は毎日一枚一枚丁寧に造るかすてらが人気だ。しっとり、ふっくらと焼き上げており、美しい焼き色をしている。かすてらの底面にはザラメが残っていて、昔懐かしい味わいなのだ。
 季節の生菓子も此の店の自慢だ。3月4月の桜餅は向島辺りに負けず劣らずの味で、ほんのり桜色の薄皮で庵を包んでおり、わらび餅も人気が高い逸品だ。漉し餡がたっぷり詰まっていて、京都などで食べるわらび餅とはまた違った丸い一口団子の様な菓子だ。
 そして東京の桜が散る頃から、坂本屋の柏餅が始まる。二つ折りになった真っ白な餅の中に漉し餡、粒餡、味噌餡の三種類が用意されている。小さめの餅なので二種類くらいはペロリと食べられるのが嬉しい。柏の葉は新芽が育つまで葉が落ちないため、子孫繁栄の縁起を担ぎ、端午の節句には柏餅が供えられると聞く。
 桜が終わると牡丹、つつじ、菖蒲(あやめ)の花などが咲き始める。もうすぐ端午の節句だ。風に乗って泳ぐ鯉のぼりの下で、柏餅を味わうのもオツなものだ。
御菓子司 坂本屋 新宿区四谷1-18
03-3351-0195