132.渋谷川の裏通り、李白の詩の如く月を相手に酒を酌み交わす。

Li-Po

 一昨年11月に閉館したキャピトル東急ホテルは昭和のモダンと云う言葉がピッタリなホテルだった。コーヒーハウス「オリガミ」ではいつもジャイアント馬場の指定席が在り、毎晩其処で葉巻を燻らせる馬場さんの姿を見かけたものだ。
 其のホテルの「李白(リポ)バー」は、待ち合わせや独り酒に何度も利用した思い出がある。酒聖「李白」の壁画が目を引き、カウンターで呑むカクテルは妙に大人の味がした事を覚えている。中国唐を代表する詩人と言えば李白だが、其の名をバーの冠にした事にとても格好良さを感じたものだった。
 僕は昔から李白漢詩が好きである。中でも「月下独酌」は良い。
 花間一壷酒 独酌無相親 挙杯邀明月 対影成三人 月既不解飲 影徒随我身

「花を囲み酒でも酒を酌み交わしたいが、独りで呑むのは空しい。盃を挙げて月を迎えれば、影と月と三人になった。されど月は酒を呑まず、影は自分を慕うばかり。」と詠っている。この詩の後半で「我歌月徘徊 我舞影零乱」と詠むのだが、「それでも、まぁ良いか。自分が歌えば月は徘徊し、自分が舞えば影だって踊り乱れるだろう。」と気ままな独り酒を綴った詩だ。
 さて、渋谷の路地裏に素敵なバーがオープンした。其の名は、なんと「Li-Po」(リーポー)である。店主は「尊敬する偉大な中国唐代の詩人、お酒と旅をこよなく愛する李白に因んで名付けた」そうだ。何とも粋じゃないか。新築のビルの二階だが、隣には太極拳の道場が在ったり、窓から覗く真正面の雑居ビルはさながら中国の四合坊に迷い込んだような空気が漂っている。
 たまには夜空の月を相手に酒でも酌み交わそうか。
Li-Po 渋谷区渋谷3-20-12-2F
03-6661-2200