140.鮑の磯焼きに〆のご飯。此れだけで分とく山に来る甲斐が有る。

分とく山

 日赤医療センター下バス停のすぐ近く、外苑西通りに面した和食料理店「分とく山」は隈研吾設計のアスロックブロックを使用したモダンな意匠が先ず目を引く。
 料理人、野崎洋光さんは長い間、西麻布のふぐの名店「とく山」の総料理長を勤め、’89年に支店の「分とく山」を開店した。
 縁と云うのは不思議なモノだ。僕がまだ会社員時代、アクシスビル地下「スパイラル」の知人に頼まれ、「とく山」の名刺をデザインした。それから二十年近く経った頃、今度は「Taste of Five」社と仕事をする事になったのだが、其処は野崎さんや中華の鉄人、長坂さんが「料理人の地位向上を目指す」事を目的とした名料理人集団だった。其の活動の賜物で今や料理人の知名度はグンとアップしたと云えるだろう。
 そんな事も有り、「分とく山」は訪れる度に好き度が増すのである。此処は一年を通じ、其の時々の新鮮な食材を存分に堪能出来るのが良い。また、こちらの食べる頃合いに合わせて絶妙なタイミングで次の料理を運んで来るのも嬉しい。
 野崎さんの造る料理は和食の基本をきっちりと押さえながらも、常に新しい試みが盛り込まれている。先附から始まり、前菜、お造り、進肴、組肴、強肴と酒が進む料理が続くのがたまらない。
 定番の「あわびの磯焼き」は鮑の肝を卵黄で溶いた濃厚なソースと、たっぷりと盛られた岩のりが鮑の味を引き立たせている逸品だ。鮑は本来、アラメ、岩のり等の海藻を食べて大きく育つ訳だから、鮑の美味しさが詰まっているのだ。
 最後は土鍋で炊くご飯だが、此の為だけに訪れた甲斐が有ると思う程素晴らしい締めである。新筍の時期が過ぎ、今は桜海老ご飯。ほんのりさくら色のご飯は米が立ち、何杯でもお代わり出来るが、おむすびを握って頂き土産にして貰うと良い。待って居る家族もさぞや喜ぶ事だろう。
分とく山 港区南麻布5-1-5
03-5789-3838