162. 不忍池の畔、蓮の花に囲まれて月光をぐいと飲み干す。

蓮見茶屋

 上野不忍池の畔、今年の夏もまた「蓮見茶屋」が始まっている。仄かな灯りに照らされた蓮の花を眺めながら、冷酒を一献つけるのだ。水面から吹く心地良い涼風に和み、盃に映る月の灯りをぐいと呑む。
 毎年、京都のお盆では大文字焼きの行事が催されが、この「大文字(五山)の送り火」の灯りを頼りに、ご先祖様が冥途へ帰るのだそうだ。昔から、この明りを盃の酒に映し、願い事をしながら呑み干すと願いが叶うと云う「言い伝え」がある。京都までは行けないが、幻想的な蓮の花を照らす月明りを大文字に見立てて、呑んでみるのも粋だろう。
 此処は東京都と台東区が協力し運営しているそうだが、店に入ると石原慎太郎都知事の書いた「蓮見茶屋」の額が掛けられていた。都知事も毎年必ず立ち寄るそうだ。中では一文百円の木札が用いられる。千円の十文札を貰い、酒と特製蓮見弁当のセットを戴くのだ。酒は冷酒の一合徳利や生ビールのジョッキ出し、特製弁当も蓮根をふんだんに使った松花堂弁当風の逸品で、これが酒に合う。酒の肴もえいひれ、板わさ、合鴨薫製などと豊富だし、本日の銘酒もあるのだ。この夜も出羽桜の吟醸酒麦焼酎のとっぺんだった。これ全て五文なので、ワンコイン酒場ってな具合だね。
 畔に突き出た桟敷席で眺める蓮の群生は見事だ。早朝にポンと咲く花も素晴らしいが、今にも咲きそうな蕾みたちも実に美しい姿をしている。蓮の花の向こうには光り輝く弁天堂や五重の塔の遠景も美しい。
 9月末までの間、午後5時から9時まで営業しているので、存分に楽しめる。また、毎晩午後6時には江戸芸や落語、講談などの演芸も催されるので、大いに酒が進むのである。もちろん、昼から抹茶に和菓子等もあるので、たっぷりと江戸情緒を味わってみると良い。
蓮見茶屋 上野公園野外ステージ(水上音楽堂)前
03-3833-0030