164. 渋谷百軒店、喜楽のもやしそばに30年の日々を想う。

喜楽もやしそば

 今も毎日の様に仕事が終わると渋谷辺りに繰り出して、何処かのバーの止まり木で呑んだくれている。高校卒業後、札幌から上京して来て、かれこれ30年もの時が経った事になる。
 思えば、あの頃は健全な日々を送っていたのかな。大学の講義もそこそこにアルバイトに精を出し、東急東横店の寝具売り場で贈答品の包装作業に明け暮れていた。バイトが終わると、古着屋やレコードショップ、輸入雑貨店などを廻って、掘り出し物を漁っていた。遮二無二働いて稼いだバイト代は、殆どが洋服かレコードに消えて行った。良い品をゲットすると、自慢気にNHK裏の珈琲店「ZOO」へ披露しに行ったものだ。英国FOX社の洋傘をセールで見つけて、飛び上がる程喜んだり、ミウラ&サンズでSmith社のペインターパンツを安価で手に入れたりして自慢していた。
 道玄坂界隈や恋文横丁辺りも当時とすっかり様変わりして仕舞った。時偶(ときたま)思い出した様に散策する事がある。今も台湾料理の麗郷は健在だが、その近くに在ったカスミコーヒー、フレッシュマンベーカリーはヤマダ電気に変わろうとしている。百軒店も餃子の大芽園、ロック喫茶のブラックホークなど好きな店が沢山軒を連ねていたが、今じゃ数える程になって仕舞った。
 それでも「喜楽」は健在だ。学生の頃は昭和の香りを残した木造二階建てだったが、今は小さなビルに建て直した。一階のカウンター席に着くと、30年前と同じチョビ髭のあんちゃんがラーメンを作っている。焦がし葱が効いたもやしそばをひと口頬張れば、あの頃の日々が蘇って来る。
 この30年間で大きく変わった事と云えば、珈琲が酒に変わった事くらいだろうか。
中華麺 喜楽 渋谷区道玄坂2-17-6
03-3461-2032