165.「せんべろ」、実に良い響きだ。魚三酒場で今宵も悦に入る。

魚三酒場

 かつて、故中島らも氏が「せんべろ探偵が行く」と云う本を出した。かれこれ、5、6年前に出たものだが、全編をらもさんが書いていた訳じゃなかったので、余り満足のいく内容じゃなかったが、それでも十条の斉藤酒場と北千住の大橋が登場していた事だけは当時としては嬉しい限りだった。
 さて、その「せんべろ」だが、千円札一枚でベロベロに酔える店って事なのだ。そして、せんべろの店は、こよなく一人酒大歓迎の酒場なのだ。斉藤酒場に毎晩の様にやってくる親爺は何を頼んでも、おもむろにジャンパーのポケットからマイ味の素を取り出して、チャッチャっと振りかけ、一人悦に入りながら、アテを摘みひや酒を呑む。実に愉しい光景だ。こっちもニヤりとしながら一人酒なのでアル。
 東京は広い。それ故にせんべろな酒場に沢山出会えるのだ。渋谷の富士屋本店、立石の宇ち多”、赤羽のいこい、武蔵小山の牛太郎、荻窪のやきや辺りは実に心和む勤労者の為の酒場だろうか。そんな懐に優しい酒場の中で、新鮮な魚介を提供しながらも、せんべろな名店が昔から門前仲町に在るのだ。
 深川不動の赤門に程近い処に店を構える「魚三酒場」は、午後3時半を廻ると徐々に人が並び出すのだ。4時開店の時には数十人の行列が出来ており、広い店内が一気に埋まってしまう。皆の目当ては名物マグロぶつだろう。230円と云う安さなのに飛びきり新鮮で美味いのだ。あら煮50円も目からウロコな嬉しい価格設定だ。
 安くて美味い極上の魚をアテに呑む酒も一杯180円なのだから当然1000円札一枚で十分愉しめる酒場なのである。暖簾が下がると同時に皆がどっと席に着く姿も実に微笑ましい。此処は上の座敷も広いので大勢でも楽しめるが、一、二階のカウンター席で一人酒を楽しむと良い。きっと毎日、並んででも通いたくなる気持ちが判ることだろう。
魚三酒場 江東区富岡1-5-4
03-3641-8071