166.「牛めし げんき」で昭和の懐かしい味を頬張る。

牛めしげんき

 今から数十年前、新橋烏森口をSL広場からちょいと入った処に「かめちゃぶ」と云うすき焼き屋が在った。此処は23時間営業で掃除の時間以外開いており、当時20代の働き盛りには重宝する店だった。コの字の大きなカウンターには一人毎ガスコンロが据え付けられており、一人すき焼きを味わう事が出来た。たしか、7、800円ですき焼き定食が喰えて、50円足せば卵が付いて来たと思う。
 随分前に叔父貴から「かめちゃぶ」とは犬の飯の事だと聞いたことがある。ご飯に味噌汁をぶっかけるのが「猫まんま」で、夕飯のおかずの残り物をご飯にかけたのを「かめちゃぶ」と云ったそうだ。外人が犬を呼ぶ時に「カム、カム!」と呼び、カムの飯でかめちゃぶなんだとか。ちゃぶ台の「ちゃぶ」とは飯のことか。終戦後の闇市が栄えた時代、屋台で煮込みを飯にかけて売っていたそうだが、これが大層人気があったらしい。定かでは無いが、これが今の牛丼の原型なのだろうか。
 その「かめちゃぶ」が無くなって久しいが、その流れを受け継いで今も変わらぬ牛めしを提供している「牛めし げんき」が新橋ガード下に在る。かめちゃぶ時代の味を守り、しっかりと割り下の味が滲み込んだ豆腐とネギと蒟蒻、そして牛肉だ。豆腐やこんにゃくが入っている辺りが、チェーン店の「牛丼」とは一線を画す処だ。 
 牛めしは庶民のすき焼きぶっかけ飯なのだ。いつでもツユだくで、ちょいと甘めな味付けも昭和の味である。小さなコの字カウンターは10人も入れば一杯だが、ひっきりなしにお客さんが出入りする。飯の代わりにそばやうどんも有るので、その日の気分で変えてみるのも良い。
 忙しい毎日の腹ごしらえに、此処の牛めしで元気をもらおう。但し、店員に元気さは期待せぬように。
牛めし げんき 港区新橋2-17-35
03-3571-6827