4.以志井の鯛のたい。

鯛のたい

 随分と長い間「鯛めし」が喰いたくなると、六本木『与太呂』が定番であった。鯛は鱗(うろこ)と骨が硬いので、どうも家では食べないのである。腕のいい料理人に裁いてもらって、調理してもらうのが一番美味しいのである。『与太呂』の予約が取れず、それでも旨い鯛めしが喰いたいなぁと唸っていた時に思い出したのが、新橋三丁目に店を構える『季節料理 以志井』だ。先日、大人数で座敷を借りた時に食べた鯛めしは他店とは比べようのない程の旨さだった。
 ここは鯛一匹を使うのではなく、2キロ程の大きな鯛の兜を入れて炊き上げるのだ。鯛のおカシラに詰まったゼラチン質は女性の肌にも良く、頬骨の廻りの身は実に美味い。ほんのり香る生姜の味も良い。その時々の旬の魚を刺身や焼き物で出してくれて、それに合う季節野菜なども素晴らしい逸品ばかりである。
また、酒好きとしては芋焼酎の佐藤と仕込水を予め割ってカメで寝かせてあるのも嬉しい。刺身をつまみながらクイクイとやれるのだ。
ここのご主人石井さんは、余り多く語らず、それでいて実に細やかに応対してくれるのが気持ち良い。お内儀さんもスタッフも皆心得ていて実に居心地が良い。
 帰り際にはカラフルに色が塗られた「鯛のたい」を一人一人にプレゼントしてくれる。「鯛のたい」とは、鯛の骨の一つで、その容姿が鯛のカタチをしているのである。昔からこの骨を財布に入れておくと金が貯まると言われている。
こんな心配りが「また来ようかな」と云う気にさせてくれるのである。斜め向かいには日本料理界の重鎮西さんの店『京味』が在るのだが、ここは負けず劣らずの名店だ。冬のふぐもまた格別なのである。

季節料理 以志井 東京都港区新橋3-5-11
03-3508-9458