6. 目黒権ノ助坂、我が町のビストロ在りき。

ビストロ・シンのメリメロ焼き

 目黒権ノ助坂は店の入れ替えが激しい処だ。そんな中、新参者ながら大変な賑わいを見せているのが『立ち飲みビストロ・シン』である。この店の名物が「メリメロ焼き」なる一品だ。メリメロとは仏語で「ごちゃまぜ」と云った意味であるが、レバー、ハツ、軟骨等々のモツ系をガーリックと胡椒で熱々に炒めた料理で、これが結構いいアテになり、ワインやビールが進む々々。
 基本は立ち飲みだが煙草を吸わない連中はカウンター席もある。夫婦で始めた店だろう、まだまだぎこちない内儀の接客も料理しか出来ぬと寡黙な主人の姿も実に微笑ましい。ビストロと云っても、肩肘はった店ばかりが横行している中、こんな町の居酒屋たる店の存在は大いに助かる。パリの町などは、仕事帰りにフラッと立ち寄ってステーキフリットとワイン、なんてのが気軽に出来る店が多い。
ここでも皿に溢れんばかりのフレンチフライがある。大の大人がマックのフレンチフライじゃ、チトサビシい。イモを揚げただけの、こんなシンプルなつまみでもとびきり旨く感じるのは、やはりこの店の醸し出す味なのだろう。真新しい店ながらも随分と居心地が良い。つい次のワインが空いてしまうのだなぁ。
 黒板に書かれた旬の食材を使った料理も美味しい。この時期ならばキノコだ。魚沼産えのき、京都の畑しめじ、長野産ぶなしめじ、岡山産マッシュルームと赤城山のエリンギ等、好きなキノコを2つ選びアンチョビバターで焼いてもらう。
 最後の〆に是非オススメしたい一品が「黒胡椒のペペロンチーネ」だ。ニンニクと胡椒のみで絡めたスパゲティだが、黒胡椒がこんなにも美味いのかと思わせてくれる逸品である。随分前にミラノで食べたニンニクとパルミジャーノだけのパスタを思い出させてくれた一皿だった。もう具など要らないのだ。美味い麺を食べる。そして、またワインが欲しくなるのだ。
 食べ物屋の激戦地でもある権ノ助坂。この店が「我が町のビストロ」と呼ばれ、多くの人に愛されるまで頑張って欲しいものだ。

立ち飲みBistro-SHIN 目黒区目黒1-5-19 目黒第一ビル1階
03-3491-3663