30.九州の風雲児なるきよは、明治の金鉱山王を越える勢いだ。

なるきよ

 九州、別府はふぐの季節が終わると城下鰈(しろしたかれい)が良い。別府の北側、国東半島へ向かう日出(ひじ)の日出(ひじ)城の城趾(じょうし)の崖下の海で捕れるのが城下鰈(しろしたかれい)だ。ここは海底に真水が湧き出ているところがあるそうで、普通の鰈より身が引き締まっているのだ。
 日出に在る「的山荘」は広大なお屋敷で、海まで庭が広がり、昔は城下鰈の漁区を独占していたそうだ。ここは、明治時代に大分で金鉱を掘り当てた成清家が大正4年に別荘として建てた4000坪もある大屋敷だ。ここで城下鰈を堪能したら、車を飛ばし湯布院の温泉郷に行くのが良い。今は城下鰈の他、豊後水道で捕れる海の幸を出す料亭として親しまれ、関アジ、関サバなども美味い。
 さて、東京、青山の裏通りに店を構える「立ち飲み なるきよ」は連日ひっきり無しに大繁盛している。威勢のいい若き主人は、板場を囲む様に造られた立ち飲みカウンター越しのお客さんの好みを察して、次々と料理を造り出してくれる。寄り選りの魚介、肉、野菜などの食材が毎日九州から届き、カウンターの上に並べられ五感を刺激する。毎日筆を取り書いている品書きも在るのだが、自分の好みに合った美味い焼酎さえ選べば、あとはお任せが一番なのだ。
 ここは、立ち飲みと銘打ちながら、実は個室も有り、座敷の方が広いので、接待やじっくりと腰を落ち着けて食事を楽しむ事も出来る。それでも、毎日ふらりとやって来る馴染み客たちは、主人の成清君との会話を肴に酒を呑むのを愉しみに通うのだ。年配から若者まで幅広く訪れるのは、ここの味はもちろんの事、若き主人以下、この店の職人全員が実に魅力溢れる存在だからだろう。これもひとえに吉田成清の大きな力なのである。
 九州出身の吉田成清は、父親から明治の金鉱山王を越える男に成れと云う意味で名付けられたのだろうか。そんなロマンを想い描いてしまう。そして、一度会ったら皆が惚れてしまう、そんな男である。
立ち飲み なるきよ 渋谷区渋谷2-7-14