68.田丸は、子供の頃の屋台らーめんの味を味わえる数少ない店だ。

田丸わんたんめん

 「田丸」は、創業60年以上の歴史を誇る目黒の老舗ラーメン屋である。ここは醤油、味噌、塩などの種類は無い。ラーメンとチャーシューメン、それにワンタンメンだ。スープの味は一つだけだ。
 中太の縮れ麺に絡むスープは鶏と野菜から取ったダシが効いた醤油味だが、この味が何とも云えず優しい味なのである。小学生の頃に「ラーメン」と云うもの自体に衝撃を受けたものだが、40年も前に初めて体験した味がそのままに残っているのだから素晴らしい。
 東京には全国から美味いラーメン店が集まり、独自のオリジナルな味を追求した新世代ラーメンも続々と登場している。どの店も素晴らしく、それはそれで大変旨く刺激的なので、僕も新しい店が出来ると大抵は足を運ぶ事にしている。しかし、新しいラーメンを追い続けて行くと次第に原点の味と云う物がボヤケてしまうのである。そんな時、決まって食べたくなる味が此処のラーメンな訳だ。
 叉焼も今流行りのトロトロな肉なんかじゃない。歯ごたえのある大ぶりのが2枚乗っかる。チャーシューメンだとこれが7枚、もう器のふちしか見えないのだ。 
 そして、僕がここで必ず頼むのはワンタンメンである。たっぷりのワンタンが入り、その上に茹でたキャ別と叉焼、メンマが乗る。叉焼をワンタンの下に沈めて、スープに浸すとたまらなく美味。茹でキャ別と麺を一緒に食べるのが実に旨い。また、器も実に変わっている。ラーメンは普通の丸いドンブリなのだが、ワンタンメンとチャーシューメンは洋食器のカレー皿の様な楕円のベーカー皿に盛られるのだが、これも妙に馴染むのである。
 カウンターのみの小さな店内はいつも混んでいる。美味しく、素朴なラーメンはサッと食べ、スっと出たい。権ノ助坂の「田丸」は、15分ばかりの至福の時間を黙って提供してくれる街場のラーメン屋なのだ。
らーめん田丸 目黒区下目黒1-5-20
03-3493-3978