43.まったりと酒を飲みたい時はフラスクが程良い止まり木になる。

フラスクのカイピリーニャ

 西麻布から広尾方面に向かい、日赤医療センター下のバス停の前に和食の名店「分とく山」が在る。この前の信号を渡り、細い坂道を登り住宅街の方へ進み角を折れると半地下になった処に明かりが灯っている。洒落た絵が架かっている隠れ家の様な小さな店がバー「フラスク」だ。カウンターと奥に一つテーブル席が在るのだが、ここに来ると必ず「ただいま。」と言いたくなるのである。
 バーとは何もカチっと白いバーコートに身を包んだバーテンダーが居なくては駄目だ、などと云う事はない。仕事がバッチリ決まり、「よし、今日は銀座で飲もうか。」なんて気分の時は敷居の高い名店に行くのが良い。でも、仕事や付き合いの酒席、宴の帰りにはタイを緩め、ゆるーく飲みたい気分である。フラスクのバーテンダー、榎本氏は大抵いつもアロハ姿で和んでいる。訪れる皆からも「エノチン」の愛称で親しまれており、彼の作るカクテルを楽しみにしている。
 季節毎の果物を使ったカクテルもとても美味しいのだが、何と言ってもエノチンの作るカイピリーニャは素晴らしい。ピンガと砂糖とライムのバランスが程よいのだ。杯を重ねれば、どんどんとまったりして、それまでの疲れを癒してくれる。そうなってくると、後はもう記憶が無くなるまで酔えるのだ。ちなみにカイピリーニャは僕の好みである。他のどんなカクテルだって彼の作る酒は旨い。
 エノチンは、永く白金台「ケセラ」でカウンターに立っていたのだが、念願かなって自分の城を持つ事が出来た。その頃からのエノチン・ファンも随分と多い。肩肘張らず、美味しい酒を愉しみたいならば、これほど心地良い隠れ家はない。
 玉に傷なのは、店を出てから一体全体どうやって家まで辿り着いたのかが判らなくなる事が多々あると云うことか。
バー flask 港区南麻布5-2-9 南麻布内田ビルB1
03-3473-2119